授業で漢字を覚え始めた彼の読書量は、加速度的に増していった。しかも、小学校には幼稚園にはない図書室がある。休み時間校庭で走り回る級友を尻目に、彼は貪るように、何かを取り戻すように、読書に没頭した。
なぜか彼は、薄暗い所での読書が好きだった。家の学習机の電気スタンドは使ったことがなかったし、学校でもわざわざカーテンを閉めて光を遮ったり、蛍光灯の少ない階段の踊り場で立ったまま本を読んだりした。
彼自身にも理由は解らないが、明るい環境で読むより集中できるのは、未だに変わらない。日の暮れ始めた時間帯に、ギリギリ電灯を点けるか点けないか迷うくらいの明るさの中の読書が、彼にとってのベストな条件だ。
だがそんな喜びと引き換えに、当然ながら彼の視力はどんどん悪くなっていった。二年生では教室の前の方の席でないと黒板が読めなくなり、三年生では裸眼では何もできないくらいに悪化していった。
そうして眼鏡をかけることで、岳郎は完成した。運動が苦手で嫌いで、本ばかり読んでいる、そんな誰もが思い描く所謂メガネキャラとして。(続)
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